カウントダウンタイマー

紳士服屋さんでベストを1着買った。

落ち着いたワインカラー。

 

本屋さんで文庫本と年賀状用の雑誌を買った。

 

・・・・・・・・

 

ウォーキングから戻り、部屋着に着替えていると、唸るような虫の強い羽音がすぐ耳元まで迫って来たので慌てて首をすくめた。

不意のことでもあったし、瞬間的に蜂の姿が浮かんだのだった。

開け閉めした窓やドアから風に乗ってこっそり侵入したり、取り込んだ洗濯物に紛れてそっと忍び入って来た小虫が、明るいうちはじっと息を潜め、夜になって部屋の照明を点けると何処からともなく現れ、光に向かって飛び立つことはときどきある。

この辺りでは、その小虫は、季節に応じてカナブンだったりカメムシだったりテントウムシだったりする。

思った通りだ。

羽音を追って視線を巡らすと、電球の周りをぐるぐると忙しそうに飛び回る緑色の昆虫を捉えた。

カメムシだ。

体調1センチほどのカメムシは先ほどから幾度となく100ワット電球に頭からぶつかっては、そのたびに掴みどころのないガラスの球面に弾かれ、30センチほど落下してはまた電球目掛けて突っ込んで行くのだった。

あんなに繰り返し何度も頭をぶつけて、気絶したり脳震盪を起こしたりはしないのだろうか。

昆虫にだって立派な頭部があり、その中には脳があるはずだし、神経や意識だってきっとある。

 

飛び疲れたカメムシがようやく見付けた足場は、粗面のクロスを貼った壁だった。

 

カメムシは独特の強い臭いを放つから、それで嫌われ者の役をやらされることが多いが、もう1つ嫌われる理由がある。

真偽のほどは知らぬが、カメムシが耳に入り込むと耳が聞こえなくなると、幼かった頃、両親からしばしば注意された。

あれは何だったのだろう。

迷信のようなものなのだろうか。

それとも、異臭のもととなる成分なりなんなりが人間の鼓膜にダメージを与えるといった科学的な根拠があっての教訓だったのだろうか。

 

柄の長いモップの毛先を休息中のカメムシの体に押し当てて絡め取ると、急ぎ足で玄関に行き、扉を開けて二度三度強く振った。

もう大丈夫だろうと思い古い埃にまみれた毛先を顔に寄せて確かめたら、カメムシの姿は消えていた。

 

カメムシは越冬する。

きっと彼(彼女?)も、今頃は庇の隙間あたりに仲間を見付け、そこでじっと身を寄せ合っているのだろう。

その光景は、洟垂れ小僧だった頃の私が、両親の布団に潜り込み、父の逞しい股座に挟んでもらって寒さを凌いでいた冬の夜に似ている気がする。

 

 

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  • 21:38
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Comment
 轍さんの御ではカメムシでしたか。
 虫が家の中に入ると、怖さも手伝い早く外へ追い出そうとばかりしてしまいますが、彼らに想いを寄せてみると不思議と胸が温かくなります。
 小さな生き物に我が身を振り返ったり、だいじなことを気付かされたり、教えられたりすることも結構ありますね。
 終わりの文章にじんわりしました。
  • にあ
  • 2018/12/02 17:14
わああ。すみません。間違えました。
さきほどコメントした、にあ、とは新谷です。
  • 新谷
  • 2018/12/02 17:17
生き物はたいてい懸命に生きていますが、小さければそれだけ生きるのも大変だろうなと思い、つい自分を投影してしまいます。
最後の部分は突然思い出して書き足しました。
じんわりしていただけたのであればとても嬉しいです。

にあでも新谷でもニイヤでもみふゆでも、文章で分かりますからご心配なく。笑

  • 2018/12/02 22:02





   

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